コラム5. 孤独と美

ミーシャがシャルルより綺麗であってはいけない理由


藤本ひとみ作品に出てくるキャラクターの中で一番“綺麗”なのは、誰?
藤本ひとみ作品には沢山の美少女や美少年や美青年、昔はさぞ美しかっただろうという
オジサンなんかも沢山出てきます。
それは何もジュニア小説に限ったことではありません。
文芸書においても、初期の頃ではひとみ先生もかなりの美人好きっぷりを発揮しています。
そう、彼女に美人を語らせれば、その表現は尽きることはありません。
いくらだって出てきたことでしょう。
『星のように反り返った睫毛』
『見事なくせ髪』
『天使のようなカーブを描いた頬』
ひとみ中毒のみなさんはきっと、誰を表現したかすぐにわかってしまうことでしょう。
私にとって不思議なのは、彼女のつかう表現は一般の人では全くできない表現を使うことです。
そして、それはどんなものなのかは全く想像が付かない。でしょう?
けれど、いろんな登場人物に共用される表現もあるが、そのキャラクター固有の表現もある。
上の例に出したのは、そういったものです。
それだけ彼女の中では、人物像が出来上がっている証拠でしょう。
そんな前置きはどうでもいいとして。
そうです、数々の美に対する形容詞を持ち合わせる登場人物たち。
では、その中でも一番の美の持ち主は誰でしょう…………?はい難しいですねぇ。『一番の美人
皆様は誰を思い出しましたか?いろんな人間を思い浮かべたことでしょう。
私が思うに、シャルル・ドゥ・アルディを思い浮かべた人は多いのではないでしょうか?
シャルルファンならずとも、容姿端麗なキャラ=シャルル…のイメージは強いはずです。
そしてその中にはきっと、同時にこんな表現を持つキャラクターがいたことを知っているはずです。
そう、ミーシャことミハイル・ゴットルプ・香月
その表現はと言えばマリナ曰く『あのシャルルでさえ、これほどではなかったわ』という美しさ。
そう、ミーシャはシャルルよりも綺麗だと明言されているのです。
にもかかわらず、その後の登場シーンではその美しさについて、美しさだけについて、
表現が少ないように思うのです。
そしてたった一回の登場にとどまり、彼がその後のマリナシリーズに登場することはありませんでした。
今後、万一シリーズが再開されたとして、彼には活躍の場が用意されているでしょうか?
ないような気がします。
なぜか。

彼がシャルルより美しかったからです(そんなのはもちろん私の想像ですが)。
私が思うに、シャルルは完璧でなければならないのです。
なんとしてでもどの分野においても、絶対に彼は完璧で一番でなければならないのです。
シャルルがどういった形あれ、他人の下にあってはいけません。
なぜなら、シャルルの魅力は完璧なことにあるからです。
シャルル・ドゥ・アルディの魅力は、何事においても完璧な人間であることです。
と同時に、どれほどに完璧であっても、どれほどに天才であろうとも、どれほどに美しくあろうとも、
彼が決して幸せでないことも、それはそれで魅力の一つなのです。
表面上の美しさ、完璧さ、そして内面の不幸。併せ持ってこそシャルルがシャルルであり、
全シリーズ中一番の人気を保つことができたのだと私は考えます。
彼に人気があったのは、彼が孤独であったからです。
孤高であるその姿こそが、多くのオトメの心を惹きつけるのです。

孤独を際立たせるための完璧。完璧であるからこその孤独。そして、それが故の人気。
ですが、ミーシャが現れた。
ミーシャの魅力もまた、孤独。ただし、シャルルの孤独と違う点はその原因にあります。
ミーシャの孤独の原因は、美しさだけではなく、目の前で親が殺されたというその過去が
大部分を占めていたのです。
それも『愛を語るエリニュス』のたった一話で解決され、彼の孤独は払拭されました。
彼は過去を克服し、カバちゃんという恋人も手にいれることが出来たのです。
美しいが故の孤独があったと、登場の際には書かれていたはずなのに、
まるでそんなものは初めからなかったかのように、彼は幸せを手に入れました。
これではシャルルの存在意味がありません
美しくても、人は幸せになれるのです。それをミーシャは知らしめてしまいました。
シャルルの孤独の原因が一つ無くなってしまったのです。
努力さえすれば、その障害を乗り越えて幸せになることができるのです。
それをミーシャが証明してしまいました。
大変です。
ミーシャに出来たことが、シャルルに出来ないはずがありません、そう物語的には。

ですが、幸せを手に入れてしまっては、シャルルの魅力が半減してしまいます。
それに、シャルルが孤独であることという事実そのものが、マリナを悩ませるのです。
和矢かシャルルか。
自らの心に従って和矢に付いて行くか、それともシャルルの孤独を癒すために、シャルルの傍に
いることを望むのか。
シャルルが孤独でなくなる術があるなら、マリナも悩まなくても済みます。
大変です。
マリナシリーズの一つの重要なテーマが消えてなくなってしまいます。
そんな訳には行きません。
そんな訳にはいかなくするには、どうすればよいか。
そう、みんなの記憶からミーシャを消し去ってしまえばよいのです。

かくて、ミーシャの登場は一度にとどまり、その影さえもマリナシリーズから消えていったのです。
と、私は考えました。

『愛してマリナ大辞典』でも、1→2に向けて、扱いは小さくなっています。
あの巽さんでさえ登場した、オールキャラ出演のはずの『愛と剣のキャメロット』でも出番はなく。
もちろん、オールキャラとうたわれながらも『愛は甘美なパラドクス』に出番はありませんでした。

そう、全てはシャルルのために(笑)。


皆さんは、どう思いますか?
孤独じゃないシャルルも素敵だと思う?
孤独なのは、彼が綺麗であることとは別ですか?
確かに、ひとみ先生による孤独ではない幸せなシャルルも、見たい。
それでも私はやっぱり、孤独の影を纏うシャルル・ドゥ・アルディが素敵だと思います。


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