落   陽


 

『あの、いつも皮肉げに構えて、決して自分の本心も弱みも見せない、私の同類項に』


『馬鹿だよ……あんたには何もかも約束されていたじゃないか。
財産も、才能も、人望も、なにもかも。皆にうらやましがられる人間だったんだ。
それをこんなふうに……こんなふうに、性急に、全部オシャカにしてしまうなんて、バカだよ』
『ああ、そうだね』

『毎週きまって出かけるって、お兄さんの面会?』
『まぁね』


『あの事件の後、すぐに転校したんだ、噂がわずらわしくてね』

けれども、その顔に後悔のかげはなかった。
そのほほえみは静かで、実に満足そうで、この上なく甘美だった。

『初めて子爵に会った時、思ったわ、ああ自分と同じ人種がいるって』


 


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『愛からはじまるサスペンス』
『愛はきらめく星になっても』
より