とある会社の日常
| 時は、3月。 決算月を向かえ、総合商社(東証一部上場)の株式会社○×の社内は、いつになくピリピリとしている。 15時。 人事部人事グループ社外啓発担当の弘子に、社内メッセが届く。 相手は、同期でもっとも気の合う円香だ。 円香は海外促進部海外事業グループ販売支援担当に配属されている。 −今日、早く上がれたら飲みに行かない?営業とケンカして、爆発寸前なの。 −いいよ。でも新入社員のIDのチェックがあって、定時は無理かも。 頑張れば、18時半には上がれるよ。 −私も定時は無理っぽいから、OKだよ。今年、コレっていう新入社員いないの? −いるよ、すっごいヒットが。院卒でフランス人とのハーフ。 黒須和矢だって。すっごいカッコいいよ。 聞いたところによると、身長も180あるって。 −そういうこ、うちに来てくれないかな。今の営業、最悪の塊だよ −ありかもね。フランス語も完璧だって言うし、海外促進部の可能性は高いかも 入社6年目。中堅OLは社内の情報交換に忙しく、愚痴をいうのにも忙しい。 ● ● ● ● ● ● ● 時は流れ、4月。 「ねぇ、黒須くん。5月の頭に歓迎会やるんだけど、2週目の木曜か金曜、どっちが都合いい?」 海外事業グループの女性達は、最近綺麗だ。 睫毛の一本に至るまで手抜かりのない化粧、磨きぬかれたネイル、美しく巻かれた髪は夕方になっても 崩れることはない。 目的は、新入社員の黒須和矢、25歳。海外事業G保全担当所属。 エリートコースの海外事業G期待の商社マンである。 強みは、その語学力と人の心に飛び込む和やかな雰囲気。 営業マンにうってつけである。 「あぁ、お心遣いなく」 年上の女性に囲まれ、和矢は心の中で冷や汗を大量に流しながらも、さわやかな笑顔を作る。 「だめよだめよ、黒須くん。何が好き??」 …狙われている………。 告白されたこと数知れずの和矢でも、この結婚適齢期の女性陣に囲まれると、さすがに焦るものがある。 「いや、ホント何でもいいですよ。オレ、そういうのに疎いんで」 あくまで腰を低く、和矢はにっこり笑っていった。 「いやぁん、黒須くん、遠慮しないでぇ〜」 グループ内の空気がピンクに染まっていることに、気付かないものはなかった…。 和矢はさらに心の中で大量の冷や汗を流す。 −ホント、マリナにばれたら半殺しダゼ。 ● ● ● ● ● ● ● さらに時は流れて10月。 『最近、忙しそうね』 電話口のマリナは、少し不機嫌だ。 電話の回数が減っていることが不満なのだ。 だったら、たまには自分から電話をしてくればいいと思うのだが、マリナがそんなマメな性格でないことを、 和矢が一番良く知っているので、つまらない愚痴は口にしない。 「あぁ、悪い。さすがに新入社員ではいられなくてサ」 『うそ、女にかこまれてるんでしょう』 「そんなことないさ。課内の女性はみんな相手がいるし」 入社してはや半年。半期を終え、仕事には随分慣れてきたが、食事に誘われる回数は一向に減らない。 みんな年上の女性ばかりだ。 丁重にお断りしているが、きらびやかな女性軍団は、それなりに魅力的でもあり、そして恐ろしくもある。 せめて、もうちょっとマリナがマメだったなら。 最近の楽しみは、マリナとの会話だと言うのに。 マリナはいつもマイペースで、なかなかデートの機会が作れない。 ものぐさなマリナとの付き合いも、ゆっくりしたペースで続いている。 焦りは禁物だ。 それでも、唯一我侭を言わせてくれるなら、パソコンとは言わない。 せめて携帯のひとつも持って、時間の気兼ねなくメールをやり取りしたい。 彼女のボロアパートは、今でも黒電話というから驚きだ。 『あ、そういえばね。薫が、ロンドンコンサートの時にガイからのお土産を預かってるから近々会わないかって。 一緒に』 『あぁ、いいぜ』 『よかった。じゃ、連絡しておくね』 ● ● ● ● ● ● ● −明日のランチ、どこにする? 金曜日の22時。 円香の携帯に弘子からのメールが届く。 −映画の後だから、ゆっくりしたいよね。久しぶりにロビンソンはどう? −OK!じゃ、また明日ね ● ● ● ● ● ● ● 待ち合わせ場所に行くと、すでに彼女は着いていた。 今日は、流行のライダー風のレザージャケットに、シンプルな黒のフレアースカートをはいている。 中には、グレーと紺が斜めに切り替えられたツートーンのニット。 華やかな美貌を彩るのは、褐色の巻き髪。 どこに行っていたのだろうか。 柔らかく肩から流れる髪にうずもれているのは、ヴァイオリンケース。 「早かったんだな」 声を掛けると、ようやく彼女はオレに気付いたようだった。 無表情だったその頬を、ふっと緩ませて皮肉げな笑みを作る。 「ちょっと寄るところがあってさ」 たったそれだけの会話を交わす最中にも、周囲の視線は否応なく集まってくる。 和矢自身、注目されることも多いが、一人だとこれほどの視線を受けることもない。 薫から発せられるオーラが、強すぎるのだ。 誰もが振り向かずにはいられない程。 集まる視線が気になる。 「どうせマリナは遅刻だろ。どっか入って待ってようぜ。今日は寒い」 薫は軽く頷いて、同意を示した。 携帯電話を持たないマリナが迷わないように、オレたちは待ち合わせ場所だった駅前の彫像が 見渡せるカフェに移動した。 「マリナが時間通りに現れた例がないな」 和矢が呟けば、薫は呆れたように苦笑を漏らす。 「だから、いい加減携帯くらい持たせろよ」 「オレが言ったって、持ちやしねーよ。持ったところで、いつも電源が入ってないとか、そいういうオチになりそうだ」 「有り得そうだねぇ」 薫はケラケラと声を立てて笑った。 「とっとと、結婚しちまえばいいんだ」 一瞬の沈黙の後、あまりにも自然に吐き出された薫の一言に、和矢は手元を狂わせて、 コーヒーカップにピッチャーをぶつけて、派手な音を立てた。 その様子を冷静に見やり、さらに薫は言う。 「ま、マリナがあの調子じゃ、まだまだ先かもな」 「おまえ、わざと言ってるだろ」 「マリナは来ないな。仕方ない、先にやるよ」 ニヤリと笑って和矢の恨めしそうな視線を無視して、薫は手元の鞄から小さな包みを取り出した。 「もうすぐ、誕生日だろ?あたしからのプレゼント」 「開けても?」 有名ブランドの包みを開けると、オニキスのカフスとタイピンのセットだった。 最近では、カフスどころかタイピンさえ付けないやつも多いが、和矢はそういった小物で遊ぶのが好きだった。 幸い、多少派手なカフスやタイピンをしていても、それに文句を付けるような社風でもない。 仮にもアパレルも扱う総合商社だ。 お洒落をすることは、良しとされている。 「ありがとう。けど、オレの誕生日なんてよく憶えてたな」 「まぁね、これでも記憶力はいいほうなんだ。 ………今更だけど、マリナと結構近いんだな」 注文した紅茶には口を付けず、手先を暖めるかのようにカップを包んで、薫は言った。 マリナとの、いや、自分の誕生日の出来事を思い出してでもいるのだろうか。 彼女にしては珍しく優しくはかない光をその瞳に宿す。 「あぁ、でも、マリナからプレゼントをもらったことはなかったな」 そして、またしばらくしてポツリと呟く。 「マリナは人の誕生日を憶えているような性格じゃないだろう」 「言えてる」 待ち合わせの時間からは、すでに30分以上が経過している。 いまだ現れないマリナに、二人は深い溜息をついた。 ● ● ● ● ● ● ● 「まぁまぁ、面白かったね」 「でも、あの終わりかたはないよね」 円香と弘子は、予定通り映画を終えて、ランチを予定しているブーランジュリーに向かっていた。 「あ、そういえば、来月黒須君の誕生日なんだよね」 「そうなんだ?」 「うん、年調資料整えてたら、見つけちゃった」 いかにも人事部らしいことを弘子が言った。 「ねぇ、ホントに彼女、いないと思う?」 彼女なんていませんよ、そう繰り返す黒須和矢の表情は驚くほど平静だ。 信用したくなるくらい。 「でも、あれだけの男、周りの女が放っておかないと思うよ」 「だって、全く素振り見せないじゃん。ケータイだって、メールとか打ってる感じないもん」 同じグループですぐ近くから様子をみている円香は、日頃の彼を思い返す。 「コンパに誘ったら、意外と来たりして」 「まさか」 院卒の彼とは、さほど年齢は変わらないけれど、年次が5年離れていると、やはり随分若くて 可愛らしく見えるときがある。 彼の見せる、若々しくて人懐こい笑みは、疲れはてたOLたちの癒しである。 謎めいた私生活に、興味がないとは言えない。 それを面白おかしく推測することは、彼女たちのひそかな楽しみ。 ● ● ● ● ● ● ● 「あ、来たんじゃないか?」 駅前の人込みにうずもれながら、待ち合わせ場所に走りよってくるマリナの姿が和矢の目に映った。 「ちょっと迎えに行ってくる。待ってて」 席を立ちかけた和矢だったが、マリナがすぐにカフェにいる二人に気付いた。手を振りながら、カフェに歩み寄る。 「お待たせっ!」 元気よく、マリナは席に着く。 「オレンジジュースとチョコマフィン」 これからランチだというのに、マリナはさっさとオーダーしてしまう。 「久しぶりね、薫。元気だった?」 忙しなく、水を飲みながらマリナは言った。 「お陰さまで」 ほんの僅か、その瞳を細めて、薫は微笑を浮かべる。 その微笑みを眩しそうに見つめて、マリナは大きく頷いた。 「良かったわ。ま、あんたが今度会おうって言ってるうちが、元気の証拠よねっ」 言っている間に、運ばれたオレンジジュースとマフィンをさっさと平らげた。 和矢の注文したアメリカンも、薫の手元の紅茶も殆ど手を付けられていない。 そんなことは全く気にせず、マリナは元気よく立ち上がった。 「さ、早くランチに行くわよっ」 和矢がセレクトしたのは、ブーランジュリー。 お嬢様育ちの薫と雑食性のマリナ。 二人の趣味を満足させてくれそうな店はあまりない。 行きつけのブーランジュリーは値段の割には美味くて、焼きたてパンは食べ放題。 メイン料理が薫の口に合うかどうかは不明だが、パンが食べ放題だととりあえずマリナの食欲を 満たすことはできそうだ。 「ガイは元気だった?」 パン皿に山積みにされた小さなパンの中から、早速レーズンロールをほおばりながら、 マリナはワクワクした様子で薫に問い掛けた。 「あぁ、子爵姿も随分サマになってきたよ」 「あのガイが、勲章をもらうなんて想像つかないわ。私も招待してくれたらよかったのに。もちろん、航空券付きでね」 ガイが伯爵家に戻るキッカケとなった薫とマリナに、伯爵自身もそれなりの気持ちを持っている。 特に、ヨーロッパを中心にヴァイオリニストとして活動している薫は、伯爵にとってもゲストとして 招くに相応しい人物といえた。 そのため、今回、ガイがはじめての勲章を受勲するにあたって盛大に催されたパーティには、 伯爵自身からゲストとして招かれていた。 「お前さんなんかが行ったら、伯爵家の品位に関わるだろ」 「あんただって似たようなもんじゃないのよっ」 ………どうしてこの二人は…。 信頼関係がなせる業か。 二人が大人しく、洒落た会話をしている姿を見たことがない。 そのガイの受勲パーティでは、薫はドレスアップし、社交界でネイティブと変わらないキングスイングリッシュを操り、 洒落た会話を交わしていただろう。 それなのにマリナ相手だと昔に戻ったようなニヒルな笑みに男言葉。 そのギャップこそが、彼女の魅力かもしれないけれど。 ● ● ● ● ● ● ● ロビンソンについてすぐ、弘子が奥の席を指していった。 「ねぇ、あれ黒須くんじゃない?」 円香が確認すると、目を見開いた。 「彼女連れ?」 同じテーブルについて、華やかな微笑を浮かべているのは、退廃的なムードが漂う美女。 すらりとした痩身は、見たところ黒須和矢と同じくらいの長身だ。 会話をしながら、その女性は時折、甘やかな微笑を浮かべ、和矢を見る。 その姿は、まるでスクリーンの中で愛を囁きあうカップルのようだ。 とてもこの場に似つかわしくない、美男美女。 二人の姿は店内でも目立っていて、客はちらちらと振り返っては溜息をついたり、ひそひそと話をしたりしている。 「やっぱり、彼女がいたんだ…」 「しかもスゴイ美人。モデル並だね」 「うん……」 なんとなく置いてけぼりをくらったほうな寂しさがこみ上げてきて、二人は同時に溜息をついた。 「なんか、来月誕生日だとか聞いてさ。ちょっと盛り上がってたんだよね、自分的に」 誕生日だからどうだというわけでもないが、それにかこつけておしゃべり出来れば、なんて自分が いたことも確かだと円香は思った。 ● ● ● ● ● ● ● 「お前、いい加減にしとけよ。他の客が見てるじゃないか」 「あたしは食べることだけが楽しみなのよっ」 「今日の楽しみは、ガイからのお土産だったんじゃないのか?」 「それもあるけど…、そんなの食えないじゃないのよ」 薫がガイから預かってきたのは、記念品の時計だった。 小さな懐中時計で、蓋には受勲の日とアルフェージ家の紋が刻印されていた。 マリナは、とても綺麗だと評していたが、彼女にとっては食べ物ほどの魅力はなかったらしい。 食ってしまったら、記念にならないじゃないかと思うのは、自分だけだろうか。 同じ時計を手に取り、ガイを懐かしむ和矢は思う。 「飽きないやり取りだな」 少し前、和矢が抱いた感想と全くおなじようなことを、今度は薫が口にした。 「ねぇ、マリナちゃん」 食べることに少し飽きたのか、スズキのソテーは半分も手を付けられていないが、既にナイフとフォークが そろえて置かれている。 もちろんもったいないとも思わない薫は、静かにペリエを傾けている。 「なぁに?」 反対に、欲張っていくつものパンを食べ続けるマリナは、手に胡桃とレーズンのパンを持って、 口をもごもごとさせている。 「来月、お誕生日だろ?あたしからもプレゼントがあるんだけど」 「ほんとっ?」 「その前に。マリナちゃん、和矢の誕生日覚えてる?」 憶えてたら、ご褒美としてプレゼントをあげる。 ニヤニヤと笑いながら、薫は意地悪く言う。 「え………」 案の定、マリナは渋い顔をして隣に座る和矢の顔を見上げ、まじまじと見つめる。 「……そういえば………知らなかったかも…」 薫は、和矢の顔を見つめながら、深い溜息をついた。 「本当にお前さん、よく出来た彼氏だよ」 ● ● ● ● ● ● ● 「黒須くん、今日のカフスボタン、お洒落ね。もしかしてブルガリ?」 同じグループの円香とコピー機の前で出会ったとき、彼女はそう指摘した。 「あぁ、はい。タイピンと揃いなんですよ。貰いもんなんですけどね」 そう言い、和矢は閉じていた背広のボタンを外して、タイピンを見せた。 「もしかして、彼女からかしら?」 小首を傾げて、円香は思い切って尋ねてみた。 もらったばかりだと嬉しそうに微笑む彼に、また少し寂しさを憶えた。 「実は、昨日ロビンソンに人事の弘子と行ってて………。 とても綺麗な女性と一緒だったから、彼女からかと思って…」 「そうだったんですか?声掛けてくれればよかったのに」 「掛けられないわ、デートなのに」 ちょっと困ったように眉をしかめた円香に、和矢はちょっと眉を上げた。 「二人きりに見えました?」 「ええ。違ったの?」 素直に円香が答えると、和矢は苦笑を浮かべた。 「まいったな。もう一人、いたんですよ。小さいから見えなかったのかな。それに、あいつ…響谷って言うんですが、 彼女じゃないっすよ。元々はもう一人いた奴を介して知り合った奴で、高校時代からの友人です」 「そう、なの?」 そのもう一人の存在が気になりつつ、例の美女が彼女でないとわかり、円香は安堵の溜息を漏らす。 「はい。それでも誕生日を覚えていて、プレゼント貰って。意外とマメな奴なんです。 もう一人はさっぱりなんすけどね」 「そう。いいお友達ね」 薫が彼女でないことが、そんなにも嬉しいのだろうか。円香は、嬉しそうに微笑んで、軽い足取りで出て行った。 マリナを、彼女だと紹介する…。 今までは彼女はいないで通してきたけれど、いつか紹介出来る日がくるだろうか。 何だか妙な期待を持って去っていった円香の後姿を見つめて、そう思った。 ● ● ● ● ● ● ● −ねぇ、昨日のカノジョ、友達らしいよ。 昨日はもう一人別の友人と3人だったって −ホントに?あんな美女なのに、まだもう一人女がいたの? 彼女いないどころか、あの笑顔で実はたらしこんでたりして。 −どうしてそういう発想になるかな… でも、すごいセレブな感じ。ブルガリのタイピンとカフス、その美女からの誕プレだって言ってた。 −それはそれで、すごい女ね。 ● ● ● ● ● ● ● 『昨日、ロビンソンに同僚がいたみたいでさ。響谷を彼女と間違えられた』 和矢は不満げにマリナに言った。 もう一人いた奴が実は彼女なんです、とマリナを紹介するには、ちょっと恥ずかしいと思うのは、 彼氏としてヒドイだろうか。 しかし、あの時に実際に声を掛けられた時、山盛りのパンにがっついている4頭身のマリナを紹介できたかといえば、 おそらくしていなかっただろう。 薫が和矢に用意した誕生日プレゼントは、実用性も込めたお洒落なタイピンとカフスのセット。 対して、マリナに贈ったのは、薫の行きつけのエステのクーポンだった。 −もうちょっと女っぷりをあげてやれよ。 そんなんじゃ、そのうち見放されるぜ。 食い意地ばっか張ってるマリナちゃん。 なんでそんな根性悪いことしかいえないのよ、そう言ってマリナは反発したが、エステなど行ったことのない彼女は、 少し興味を引かれたようだった。 『エステ、行ってみるのか?』 ちょっと興味をそそられて、聞いてみた。まったく化粧をしないマリナの肌は、卵肌でそのままでも綺麗だ。 でも、ダイエットは必要だろうな…。 『うん、折角だしね。体験してみたいわ』 『もし、もう少し痩せて大人っぽくなったらサ………』 和矢は、少し口ごもった。 『何?』 『いや………なんでもない』 一瞬、薫の言った“結婚”の文字が頭をよぎった。 『オレの誕生日までに、ちょっと痩せて綺麗になれよ』 『何か引っかかるわ、そのことば』 『オレの誕生日までにエステに行けよ。そしたら、ちょっと早めの誕生日プレゼントに服を買ってやる。 その服を着て、オレの誕生日を祝いにちょっと洒落たレストランにでも行こうぜ』 結婚は、まだ早い。 でも、ちょっと洒落たレストランで誕生日にディナーくらいする関係でありたい。 翌月に迫った誕生日。 カレンダーには、二人分のしるしが付けてある。 どうか、ロマンチックな誕生日を迎えられますように。 和矢は、そう願った。 ● ● ● ● ● ● ● 円香は、今日も念入りにマッサージをする。 むくみがとれると評判のマッサージジェルを弘子と一緒に買ってみたのだ。 何せ、弘子と名づけて“黒須和矢をコンパに引きずりだそう作戦”を遂行中なのだ。 美しく保つ努力はしなければ。 和矢に到底美しいとは言いがたい“素朴な心”を持った彼女がいることなど知らず、美しくあることを目標にする 二人のOLは、闘っていた。 和矢のロマンチックな誕生日への願いも知らずに。 |
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こちらは、コトコさま主催の和矢のBDイベント、 黒須和矢HappyHappyBirthday2009 に
投稿させていただいた作品です(タイトルを変えました)。
作品投稿の条件としては、誕生日を祝う内容でなくてもよいとのことでしたが、
何となく誕生日の要素も含めてみました。