Dark Side
| 誰にも聞かせられない話。 最後の一人の演奏を聞き終えた。 テクニックは悪くなかったが、表現力がなく、退屈な演奏だった。 手元の採点シートに評価を記入していく。 ふっと息を抜いたとき、あの声が響いた。僕の人生を変えたあの人物の、あの声。 まっすぐに透き通った瞳で、審査員席を見据えた。僕にとってどんなに残酷な 行為であるかを知りもせずに、彼女はこの審査会場に入ってきた。 ざわめくホールの片隅で、初めてあなたに出会った。 たった一曲でこれほどにまで気分が悪くなるとは思ってもいず、体調の悪さを 認識させられた。 あんなにも結果が怖かったコンクールは初めてだった、それも予選で。 指ならしさえ、練習期間さえもなかった。 どうしても通らねばならないコンクールなのに自信がない、らしくもない感情では あったけれど、それが紛れもない本心だった。 似ている、真っ先に思ったのはそのことだった。 その表情も口調も…そしてその音さえも。憎らしい彼に、どこまでも酷似していた。 なのに、それなのにその音はなぜか心の中に響き渡った。 彼女の心臓が悪いことはもちろん知っていた。そしてその様子にあまり体調が よくないだろうことが見て取れた。 憎らしい、許せないと思った。 今さら、なぜお前がバイオリンに触れることができるのだ…? 美しいと感じてしまったその音を、感性を、心の中からはじきだした。 計画は、失敗だった。これ程の失敗もないだろう………。 この手で息の根を止めると、誓ったのに。お前がバイオリンを手にした罰に。 お前には死の恐怖と、やつにはこれ程にない制裁を、味わせてやるために。 計画を練り、すべて準備を整えたというのに。 これほどの失敗があるなんて、思ってもみなかった。 あなたのために、もう一度、人生を歩むために手に取ったバイオリン。 もう一度会いたくて、今の私を見てほしくて、臨んだコンクールだったのに。 その先でこんなことがあろうなんて、思ってもみなかった。 似ていた…あなたに。これ以上ないほどに、似ていた。 真正面から、見つめられたその瞬間に面影を見つけていた。 失敗の代償は、死。 それをこそ望んでいた、おまえをなきものにして僕もマリの元へと…。 たった3日の間に、誤算が生じた。 その誤算こそ、僕も、奴も、おまえも逃げ切れなかったもの、感情だ。 愛してしまっていた、3日の間におまえを。 裏切られたというのに。 死を望まれてさえいたというのに。 それでも……。 探し求めた彼の面影の先に、あなたを見ていた…。 ほんのひとときの間、私はあなたを、まごうことなきあなたを見ていた。 愛していた。おまえを。 愛していた。あなたを。 愛していた・・・・・・。 |
妄想大爆発……。