復讐
〜鈴の音に寄せて〜









青ざめたかおで、ぐったりとベッドに沈み込む女性がいる。
当然だ。随分な体調だったから。
心の中で、冷笑する。

寝返りを打つ体力もないのか、時々、頭の位置だけを動かす。
こちらに傾いでいた頭が、重心を変える。今まで隠れていた、白く、思いのほか細い首が姿を現す。

知らず知らずのうちに、その首へ手を伸ばす自分を止められない。
綿密に作り上げた計画を無に帰すことになる。なのに、力を込めてしまう。
憎しみが、心を支配する。首に掛けた手を離すことができない。

数瞬後、薔薇型の唇から小さなうめき声が漏れた。
息苦しさから、彼女の意識が覚醒するのを感じた。

その瞬間に我に返り、慌てて手を離す。
いけない。こんなに簡単に逝かせてたまるものか。
この世で体験しうる最高の苦しみを、目の前の女性とあいつに思い知らせてやる。
それが君達に与えられる罰だ。
死刑?
そんなもので納得などするものか。それっぽっちの苦しみなんて、奴は何とも思わないに決まっている。

知っている、あいつがどうすれば苦しむのか。
こいつだ。この女性を苦しめればいい。それが彼への罰だ。

心の中で呟く。


うっすらと、彼女は目を開けた。
けだるげな瞳で、うっとりと僕を見あげてくる。そうだ、いいぞ。信頼しろ、僕を。誰よりも信頼するのだ。
裏切ってやるから。
信頼すればする程、裏切りは意味を持つ。だから、僕を信頼しろ。優しくしてやるから。

僕は、手を伸ばす。今度は彼女の額に。
ひんやりと体温を感じさせない肌に、じわりと脂汗が浮かんでいた。
眉根は、きつく寄せられたままだ。
いい調子だ。
「目が覚めたか?気分はどうだ?」
「もう大丈夫です。瀬木さんこそ……。ずっとこちらに?」
「大丈夫だよ。僕の心配をする暇があるのなら、自分の心配をしなさい。まだ顔色が悪い」
「本当に、もう大丈夫です。冷えますから、部屋に戻って休んでください」
いいぞ、信頼しろ。
「君がもう一度眠ったら、僕も戻って寝ることにしよう。いいね?」
体から力を抜いて、彼女は力なく微笑む。
いい顔だ。僕を頼れ。裏切ってやるから。
すぐに彼女は眠りについた。
彼女らしくない眠りの深さが、彼女の衰弱を示す。

さぁ、明日は君の好きな香水を付けてレッスンだ。
君はあの香りが好きだろう?何しろ、君の兄が使っていたのだから。
疲労した体には、堪えるだろうね。
さぁ、眠っておけ。
明日の夜は眠れないんだから。






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